俺と古泉が駅前の喫茶店で話をした数時間後、俺たち超SOS団はジャージ姿でグランドに集合していた。 向うに野球場やテニスコートがあるが、俺たちが居るのは授業などで多目的に使われるトラックの引かれたスペースの方だ。普段は陸上部のテリトリーだが、今日は休みなのか外で試合でもあったのか理由はわからんが陸上部員の姿は見えない。 服装は全員学校指定のジャージ。ハルヒと古泉は光陽園のでお揃いで当然北高とはデザインも色も違う。一方北高組は学年で色違いなので俺と長門がお揃いで朝比奈さんだけ色違いだった。 「ハルヒ、これはいったい何の真似だ」 十数メートル離れてハルヒと対峙するように俺を含めた4人が数メートル間隔をあけて並んでいた。 「合宿といったら決まってるでしょ、特訓よ!」 「特訓だと?」 ハルヒは手に金属バットを持ち、その足下にはサッカーボール、バレーボール、バスケットボール、その他各種球技のボールが転がっていた。 合宿開始後いきなり発動された校内探索命令で俺たちは分散して各種ボールと得物を調達してきたのだ。まあ殆どが用具室から拝借してきた代物だが。 「そう! 特訓よ! 我が超SOS団に相応しい体力、精神力、判断力、知性、洞察力、推理力その他諸々を培うには特訓しかないのよ!」 俺の隣にはテニスラケットを持った古泉がいてその向うに卓球のラケットを持った長門、さらに向うには右手にグローブをつけた朝比奈さんが恐々と立っていた。 ちなみに俺は得物なしだ。ハルヒ曰く、一番下っ端は素手なんだそうだ。 しかし、体力・精神力辺りまでならかろうじて判るが、ジャージ着て校庭でなんの知性を培うんだ? どこかの勝ち抜きクイズ番組にでも出場するつもりか? なんて口に出すと本当にやりかねないから言わないが。 まあ、俺だって合宿って言ったらただ泊まって飯食うだけなんて思っていなかったさ。 「こらジョン、もたもたしないでいくわよ!」 とりあえず俺はハルヒがかっ飛ばしたボールを種類に応じてトスしたり受け取ってドリブルしたり蹴り返したりした。ハルヒが何をしたいんだかさっぱりだ。 なんて考えていたら、カン! といい音がして野球の硬球が飛んできた。 「こら!避けるな!」 ハルヒが怒鳴っているが、硬球なんか素手で捕れるかよ。 「次! いくわよ!」 ハルヒがバットを古泉の方に向けた。 まあ古泉のことだからテニスくらい経験があるだろう、テニスラケットを構える姿はサマになっていた。だが飛んでくるのは当然テニスボールだけではない。 見ていると、ボールによって直接蹴ったりして卒なく捌いてた。 つまらんので視線をその向うで突っ立ってる長門に向ける。 この長門は元の世界のあの長門と違って非常識な動体視力は無いだろうから心配だ。 さらに向うには朝比奈さんが、いかにも訳も判らずここに居ます、という感じで所在なさげに立っている。 で、結局これはいったい何の特訓なんだ? いや判ってたさ。ハルヒは発散できればなんでも良かったんだ。 「次、有希、いくよ!」 次は長門か。大丈夫か? あいついきなりボールを顔で受けて気絶とかするんじゃないか? と思ったがそれは危惧に過ぎなかった。 長門は大きく外れて自分に当たらないボールは見向きもせず、顔めがけて飛んできたサッカーボールは器用にも小さなラケットをダブルハンドで持って受け止めていた。硬球など裁けないボールは避けたりと、非常識な程じゃないがよくボールを見ている。ボーとしているようでこの長門は意外と運動神経が良いらしい。 「次! みくるちゃん!」 おっと俺の出番だ。 朝比奈さんは案の定、一球目で「きゃーっ」っと可愛い悲鳴をあげて、頭を両手で抑え座り込んでしまった。 「こらー! 真面目にやれー! ジョン、そこどきなさい!」 「バカいえ、朝比奈さんに怪我させるつもりか?」 蹲る朝比奈さんの前に立ちはだかる俺に、ハルヒは口をアヒルにしたが、 「もう、いいわ。全員退場!」 古泉が肩をすくめる。 「終わりだそうですよ、朝比奈さん」 「あ、はい」 俺は朝比奈さんを立たせてグランドの隅に誘導した。 ハルヒは手元のボールをヤケクソみたいに全部打ち飛ばしてバットを放り出し、後片付けしておいてと言い放って校舎の方へ行ってしまった。多分飽きたのだろう。 随分と勝手な奴だが、元の世界で9ヶ月近くハルヒに振り回された経験を持つこの俺にとってはこのくらいは予想の範囲だ。 ハルヒが散らかしたボールを手分けしてかき集めている時、古泉が俺に耳打ちをしてきた。 「あれが発生したようです。見たいと言ってましたね?」 「何処だ?」 「この近くです。買いものに行くと言って出ましょう」 ボールの片付けが終わってから俺は古泉と買出しに出るといって学校を出た。 しかし、閉鎖空間が発生したと言うことは、ハルヒは発散できていなかったってことだよな。 あんな訳の判らん特訓じゃ当たり前だと思うが、「買出しに出る」と告げた時のハルヒは案の定口をアヒルにしていた。 ついでに昼飯の買出しを頼まれたが、アレの処理にはどのくらいかかるんだっけか? あまり遅れるとまたハルヒの機嫌が悪くなって閉鎖空間が広がるぞ? 「すぐ済みますよ」 古泉はそう言ってまたあの薄笑いを浮かべた。 結論から言うと、見なくても良かった。 元の世界で見た閉鎖空間とまったく同じだったからだ。 ただ俺が前に見たのと比べてかなり小規模で、神人とかいうやつも巨人と言うより大男(とはいっても4階建てビルくらいはあったが)といった感じだった。まあ今回はたまたま規模が小さかったのかもしれないが。 一方、超能力者のお仲間も、数えたわけではないが見た感じでは前に見たのの半分に満たないのではないかと思われた。 ものの数分で閉鎖空間の『処理』は終わり俺はもと居た場所の空間に戻っていた。 で、俺はそのまま古泉を待たずにコンビニを回って学校に戻った。 古泉は自分で言っていた通り、リーダー格に祭り上げられているらしく終わってからする事があるからと俺に先に行くように言ったのだ。 |